このコーナーでは、
林泉メンバーが詠んだ歌の中から、おすすめの一首をご紹介します。
Y.Fさん(女性)の作品。
夜空を仰げば星屑までくっきり見えた若い日。それが今は・・
★ここに注目
=心象詠=
若い時代、実際に見えた星のことを歌いながら、自分の人生をも象徴的に表現している点に注目しましょう。短歌の世界では、このような詠み方を「心象詠」と呼んでいます。
T.Aさん(女性)の作品。
雲ひとつない秋空が、目に浮かびます。「見上ぐる」前は、心にモヤモヤを抱えていたのかもしれません。
★ここに注目
=普遍的な風景を詠む=
誰にでも心当たりある一瞬を歌にしたこの作品。鑑賞する人にとって、イメージしやすく類似体験ができ、心の幅が広がります。
H.Sさん(女性)の作品。
耳に飛び込んできたラップの一声。思いがけないことに、はっとしたのでしょうか。
★ここに注目
=口語=
会話をそのまま使うと、強調され効果的になる場合があります。この歌は、会話部分が山場。問われているようで、去った後に重く余韻が残ります。
H.Kさん(女性)の作品。
眠剤とは睡眠を促す薬のこと。久しぶりに飲まずに寝た日…言葉が見あたりません
。
★ここに注目
=写生に忠実に=
体験した景色を述べることで、内にある想いを表す。まさに写生な歌で、心情を直接言葉にするより、ぐっとくるものがあります。
I.Tさん(女性)の作品。
お彼岸が近づいています。父親の涙…これがすべてを物語っています。
★ここに注目
作者の母はすでにこの世にないのでしょう。 その母の思い出に涙する父を詠んで父母の愛情の深さが表現されます。「見しことのあり」と過去形で詠まれているので、父もまた亡き人かもしれませんね。
H.Kさん(女性)の作品。
このような状況は、自分の昔を懐かしむ気持につながっていくのかもしれません。届かないことで、現実を知ってしまう…なんともいえない余韻が残ります。
★ここに注目
転がってきたサッカーボールを拾って投げ返す、その若々しい動作と、届かないことを嘆く気持の差が、この一首の味わいになっていますね。
Y.Aさん(女性)の作品。
島根在住の作者。日頃から地元の風土を大切にする作者の人柄が伝わってくる歌です。
★ここに注目
=「ぬ」の2つの意味=
「答へぬ」は、答えないのではなく、答えたの意味。さらに、仮定の事を、さも既定の事実であるかのようにみなす場合にも使われます。
S.Tさん(女性)の作品。
共感を覚える人も多いのではないでしょうか。作者の表情が目に浮かびそうです。
★ここに注目
=前半の弱さと後半の強さ=
投げ出してしまいたく、席を外している前半と、隠して戻る後半。気持の複雑さと変化する様が歌によく表されています。
S.Fさん(女性)の作品。
読む人それぞれに、思い当たる節のあるような作品です。多くは語られていませんが、考えさせられる歌ですね。
★ここに注目
=一過性でない想い=
結句の「なりたり」は、過去ではなく今まさに続いている様子を表します。
H.Oさん(女性)の作品。
72年が経ち、様々な想いをかかえる今の広島。広島発の様々なメッセージは、このご時世、年々役割を増しているのかもしれません。
★ここに注目
=31字で表す包容力=
「ささやく」とは、小声で言う、うわさする等の意味。前半を包み込むような後半の包容力と、広島の重みを、重ねてみてはいかがでしょうか。
C.Kさん(女性)の作品。
商店街に提灯が並ぶと、なぜかわくわくしませんか。お店をしている作者の誇らしげな様子が浮かびます。
★ここに注目
=灯=
「灯」には、あかり、ともし、あかし、ひ、とう、とぼし等、多数の読み方があります。歴史の深さを感じます。
S.Tさん(女性)の作品。
蝉が印象的な季節になりました。慌ただしい日常で、たまには、このような過ごし方もいかがでしょうか。
★ここに注目
=抽象的な広がり=
人気ない「静」な神社と、蝉の「動」な鳴き声。その2つが同時に存在する中に自分を置いた様子を、味わうことができます。
M.Iさん(女性)の作品。
思わず笑みがこぼれる作品ですね。頼もしい6歳児です!
★ここに注目
=光景の浮かぶ歌=
コミカルな内容の中に、兄弟の様子や見守る作者の光景が浮かびそう。31字で表現しようとする意気込みを感じる例です。最後の括弧は、見た目にも強調され、一首に印象を残します。
M.Aさん(女性)の作品。
亡くなられたご主人を、しっとり偲んだ一首です。
★ここに注目
=存続の意味「たり」=
「飾りたり」の「たり」には、「その状態が続いている」意味があります。花を飾るその前後のプロセスを詠んだ、余韻の美しい一首です。
T.Uさん(男性)の作品。
梅雨が続くのは、人も植物も同じ。一時の晴れに想いを込めた一首です。
★ここに注目
=貴重な一時を詠む=
受粉時に雨を嫌うスイカは、元々砂漠地帯が原産。「梅雨の晴れ間」は、湿度の高い日本で数少ない受粉機会であることをふまえると…。
K.Iさん(男性)の作品。
ずっしり重みを感じる一首。90歳を超えないと詠めない歌ですね。
★ここに注目
=「過ぎて来にけり」=
単に「過ぎてきた」の意味だけでなく、助動詞「けり」に「今まで気づかなかったが、初めて気づいた驚きの様子」の用法があることを意識すると...。
H.Oさん(女性)の作品。
セーターをもらってもわからないほど眼の状態が悪いのでしょう。様々なぬくもりを感じる一首です。
★ここに注目
=五感を歌に残す=
眼が見えにくい分、セーターが直接触れた時の感動を大切にしたいと考える作者。感性を柱にして詠んだ結果、目に見えないぬくもりが強く印象に残ります。
K.Kさん(男性)の作品。
最後の「九十二歳」、歌に重みと引き締めを感じます。
★ここに注目
=結社に入るメリット=
作者はまさにこの歌を有言実行している方。それをふまえると、歌の重みが増します。作者本人を知っていると作品理解をより深めることができる。ほどよい距離感の結社(短歌グループ)ならではの長所のひとつです。
K.Fさん(女性)の作品。
「うから」「やから」 は、親族、親しい人の意味。これまでも、身近な人々に送っていたのでしょうね。
★ここに注目
=歌の味わい=
今回で最後となった、送る人の気持を、歌から想像することができます。歌を通して、感情を味わう…ここにも短歌の魅力が表れています。
E.Sさん(女性)の作品。
夏に長いつるを伸ばすひょうたん。その実は、末広がりな形から、古くより縁起がいいと親しまれています。
★ここに注目
=諸行無常の余韻=
勢いよく伸びた過去と、対照的な現在。ポジティブさも持ち合わせつつ、現状をしっかり捉えて、自然の移ろいに着目した深みある一首です。
H.Sさん(女性)の作品。
栗の季節です!娘さんに送るつもりの栗ですが、皮を剥くのはひと苦労。娘さんの手間を思い、前もって剥いて送る、という母の愛が一首にあふれます。
★ここに注目
この歌の場合の「届けむ」は意志を表す助動詞で、現代語訳すると「届けよう(としている)」の意味になります。助動詞の用法を正しく押さえることが大切。この歌も、文法の持つ意味が歌の理解を助けるいい例といえます。
H.Sさん(女性)の作品。
興味津々なのは、赤ちゃんの足!かわいい犬の姿に、思わず笑ってしまいます。
★ここに注目
=面白い視点=
自分と異なる興味を持つ対象に興味を持つことで、新しい発見がみつかる。それを31字にまとめ特徴ある歌になりました。日常の心がけが短歌に表れるいい例でもあります。
H.Nさん(女性)の作品。
厳しい暑さが過ぎ、ようやく来た涼しい風に幸せを感じる時期になりました。秋の深まりの第一歩です。
★ここに注目
=言葉の多様な意味=
風に草花が揺れている様子はもちろん、手紙の末尾に記す「草々」、つまり慌ただしさや簡潔さが秋の風に揺れていると読むこともできます。
Y.Bさん(女性)の作品。
風蘭の花は、バニラのような甘い香りがします。葬送に向かう作者の気持ちも暗いだけではないようです。
★ここに注目
=間接的に表現する=
香りから、とある人を身近に思う…万葉集の恋愛歌のようですね。香りを通してその人らしさや作者の心持を表している点が歌の味わい深さにつながっています。
K.Fさん(女性)の作品。
心の叫び声が、そのまま歌になったような一首です。
★ここに注目
=思いのありたけ=
「思いのありたけ」には、想いのすべて、中でも慕う気持すべて、という意味があります。
I.Aさん(男性)の作品。
お墓を訪ねる機会が限定的になっている方、意外と多いのではないでしょうか。
★ここに注目
=無言の深さ=
この歌は、やはり結句。「無言で」「磨けり」どちらにも深い想いが感じられます。象徴的な西日、言葉の不要な様。磨いているのはお墓だけでしょうか。
K.Kさん(女性)の作品。
戦時中のことを語れる人が、いよいよ限られてきています。
★ここに注目
=伝えたいことを読み手に委ねる=
生じた出来事を受け、作者がどう思ったかは示されないまま。事実を淡々と詠むことで、かえって読み手に強い印象を残します。
K.Dさん(女性)の作品。
この猛暑、ホースの水まで熱くなるのも納得です。そんな中での「虹」…どう感じましたか?
★ここに注目
=1つで複数の意味をもつ=
最後の「たり」には、終わってしまったと続いているの2つの意味があります。虹は一瞬見えて消えたのか、それとも見え続けているのか。この場合、読み手が自由に光景を思い浮かべることができ、その余白の残し方も短歌の大きな魅力のひとつです。
A.Uさん(女性)の作品。
夏の暑さに食欲も衰えがち。お嫁さんへの感謝の気持が素直に伝わってきますね。
★ここに注目
=日常の中の感動を詠む=
女性らしい視点や「嫁御」の表現に、作者の個性が見られます。普段の生活の一コマに潜む小さな感動を大切に歌にしたいい例です。
A.Iさん(女性)の作品。
緑の清々しさが目に浮かぶような、生命力溢れる一首ですね。
★ここに注目
=視点の変化がうむ効果=
見ている視点が、小さな「双葉」から、双葉の続く「畝」に変化していて、清々しい美の広がるイメージが伝わってきます。
E.Kさん(男性)の作品。
緊張感のある歌です。思わず背筋が凍るような迫力を感じます。
★ここに注目
=事実を具体的に詠む=
淡々と事実を詠むことで、重みが表現されるいい例です。31字で、読み手の心に想いを残す…短歌の魅力の一つです。
H.Sさん(女性)の作品。
ふと肩の力が抜ける一首。
夫の寛ぐ姿を見て、笑みがこぼれたのでしょうか、それとも溜息が出たのでしょうか。
★ここに注目
=素直な気持で詠む歌=
奇をてらわず欲を出さず、その時感じた想いを歌にする。林泉で大切にしている姿勢のひとつです。